
内宮の正宮から荒祭宮へと向かう道すがら、萱葺き屋根の社殿がふたつ並んでいます。神嘗祭などにお供えする御料米を納める御稲御倉(みしねのみくら)と、外幣殿(げへいでん)です。ふと屋根を見上げると、萱の上に苔が広がり、草木が芽吹いて、まるで小さな森のようになっていることがあります。

2013年(平成25年)の式年遷宮で建て替えられてからおよそ13年。風や鳥が運んだ種が萱葺きの屋根に根づいたのでしょう、季節とともに少しずつ育ってきました。人が植えたものではなく、神域の杜と雨と光が、時間をかけてつくりあげた風景です。もちろん、これらの社殿も次の式年遷宮では新しく建て替えられます。20年ごとに生まれ変わる「常若(とこわか)」の伊勢だからこそ出会える、それまでの限られた季節の、移ろいの美しさともいえます。
屋根の上の森といえば、福岡の太宰府天満宮にも心に残る建築がありました。124年ぶりの御本殿大改修にあわせて建てられた3年間限定の仮殿(かりでん)です。建築家・藤本壮介氏の設計によるこの仮殿は、屋根の上に当初約46種類の植物が植えられ、「浮かぶ森」とも呼ばれて親しまれてきました。2026年5月16日にその役目を終え、屋根で豊かに育った植物たちは境内に移植されて、これからも太宰府の杜とともに生き続けるそうです。

伊勢の屋根の森は自然がゆっくり育てたもの、太宰府の浮かぶ森は人の手で描かれたもの。成り立ちは違っても、どちらにも、社殿と杜をひとつのものとして大切にしてきた日本の祈りの感性が息づいているように思います。建物が自然に勝つのでも、自然が建物を壊すのでもなく、ともに在ること。
内宮にお参りの際は、正宮だけでなく、ぜひ御稲御倉や外幣殿の屋根にも目を向けてみてください。萱の上に揺れる小さな森が、伊勢の時間の流れをそっと教えてくれるはずです。